日本語の漢字の不思議 2015/5
日本語の漢字は、同じ漢字を違った発音する。例えば「行」は、「ぎょう」、「こう」、「あん」という音読みがある。熟語にすると行列、行動、行脚とそれぞれ読みが違ってくるのを不思議に思ったことはないだろうか。
今の中国人に聞くと「行」は「こう」としか発音しないようである。
日本語の漢字はもともと中国から伝来したものであるからその伝来した時代や元になる中国語の方言の違いなどにより違っているそうである。具体的には3つないし4つの時代の流れを踏んで今日の漢字になっているようである。
最初の段階は
4世紀末の応神天皇期の時代で、日本に最初に漢字を伝えたのは、朝鮮半島の南西部の黄海に面していた百済である。百済は、当時の文化の中心であった南朝の長江(揚子江)下流域と交易を盛んに行っており、この地域の言語を「呉音」と呼び、百済の漢字音はこれに従っていた。これが「呉音」である。古事記の万葉仮名には呉音が使われている。
次の段階は
7,8世紀に入ると、中国では北方の北朝が台頭、この系譜の隋、次いで唐が中国を統一した。唐の時代、唐の首都圏である洛陽・長安(今の西安)地方で新たな中国語音が使われ始めた。 この頃、日本は、中国の国家制度(律令制度)や文化を積極的に取り入れる為、遣隋使、遣唐使をさかんに送った。使節は、長安の発音を日本に持ちかえり、これを漢音と呼び、日本に広めることになった。
第3の段階は
宋代(10〜13世紀)以降、元、明、清の時代、禅僧や商人などの往来に伴って主に中国江南地方の発音が伝えられた。これらを総称して唐音という。「行灯」をアンドン、「普請」をフシンという類である。
江戸時代の後期には儒教は漢音。仏教、和歌・国学は呉音。のように使い分けられた様で、
これらの漢字音が入り混じって現代の日本語になっているようである。
中国の場合、時代の権力者が漢字を支配することが行われ、時代とともに漢字の音が変化していったが日本は漢字を輸入して使用を開始したため、二、三百年ぐらい後から入ってきた漢音に最初の呉音が駆逐されるような事が無かったようだ。
ちなみに現在使用している数字類いは呉音が使われている。
一 二 三 四 五 六 七 八 九 十、百、千、万は
イチ、ニイ、サン、シイ、ゴウ、ロク、シチ、ハチ、ク、ジュウ、ヒャク、セン、マンと読むのが呉音。
イツ、ジ、サン、シ、ゴ、リク、シツ、ハツ、キュウ、シュウ、ハキ、セン、バンと読むと漢音になる。
仏教関係のお寺の名称は
浅草の浅草寺(センソウ)、横浜の弘明寺(グミョウ)は呉音である。
どの漢字が呉音、漢音、唐音なのかの判別は難しい。
一例を示すと次のようになる。
呉音 漢音 唐音
--------------------------------------------------------
上 ジョウ(上陸) ショウ(上人)
下 ゲ(下品) カ(下流)
大 ダイ(大地) タイ(大会)
地 ヂ(地主) チ(土地)
土 ド(土星) ト(土地)
男 ナン(長男) ダン(男性)
女 ニョ(女人) ジョ(女性)
人 ニン(人間) ジン(日本人)
日 ニチ(毎日) ジツ(休日)
音 オン(騒音) イン(母音)
建 コン(建立) ケン(建築)
金 ゴン(黄金) キン(砂金)
分 ブン(分割) フン(分)
内 ダイ(境内) ナイ(屋内)
明 ミョウ(明星) メイ(明暗明) ミン(明朝体 )
行 ギョウ(行事) コウ(行動) アン (行脚)
あとから入ってきた言葉(熟語)をその時代の音とともに受け入れてきたというのが日本の漢字文化なのである。共存状態と云えるのである。
日本の漢字は中国の文明の歴史が色濃く残っているのである。
補足
「ひらがな」は、西暦900年頃の平安時代に、「万葉がな」に代わるものとして考案されたという話である。「万葉がな」は漢字の当て字(借字)を使用していた。
「カタカナ」は、西暦800年頃に、ひらがな同様、文字を簡略表示させる目的で考案されたという話である。
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